ディスラプション時代にビジネスリーダーがどのように経営の舵取りをするのか解き明かすAlixTalk。9.11、経営破綻、パンデミックなどのディスラプションを経験したデルタ航空のエド・バスティアンCEOにパンデミックの教訓とディスラプションへの心構えを伺いました。

※本コンテンツは2024年1月に実施されたAlixTalkの内容を編集したレポートです。

ディスラプションは必ず起こる。何かが起こるとき、多くの場合良い方向には向かわない

―あなたほどディスラプションを経験したリーダーはほとんどいないと思います。
9.11、格安航空会社との競争、経営破綻、パンデミックなど、あなたは信じられないようなボラティリティとディスラプションが起こる環境下でデルタ航空を先導してきました。まずはじめに、ディスラプションをどのように捉えているのか、教えてもらえますか。

エド・バスティアン氏:
ディスラプションは我々のビジネスモデルの中核をなすものです。私たちがディスラプションについて理解しているひとつは、何が起こるかを正確に予測できなくても、ディスラプションは必ず起こります。

私がチームに対していつも言っていることは、何かが起こるとき、それは多くの場合良い方向には向かいません。それは、私たちが何らかの形で準備できていなかったり、オペレーションにマイナスの影響を与える方向です。

パンデミックは同様で、何が起こっているのか誰も知らず、ましてや備えなどしていませんでした。私たちがビジネスで学んだこと、そして私が個人的に学んだことは、レジリエンス(回復力)という概念です。

ディスラプションはあらゆるタイプで起こります。AIやテクノロジーが中核となって起こる可能性もあり、それは今後のあらゆるビジネスモデルに大きな影響を与えるでしょう。あるいは、地政学や外生的な事象などに対しても、私たちは対処を余儀なくされます。ここでレジリエンスが鍵になります。

パンデミックからの学びは従業員への透明性の高いコミュニケーション

―今挙げられたような重要な出来事や、他に思い当たることを振り返ってみて、「この先やっていけるかどうかわからない」と感じられた一番タフな出来事を共有してもらえますか。

エド・バスティアン氏:
もっともタフだったのは、パンデミックでした。
パンデミックの初期は、デルタ航空は史上最も好調な年を終えたばかりでした。しかし、文字通り60日後には、私たちの飛行機はほとんど利用されなくなりました。当時、当社の収益はゼロではなく、マイナスになりました。お客さまから預かった保証金を週に何億ドルも返金しなければならなかったからです。

私がパンデミックから得たことのひとつは、従業員に対してディスラプションを透明性高くコミュニケーションする重要性です。コミュニケーションが鍵だと思います。リーダーにとって、物事がうまくいっているときのコミュニケーションは実は簡単です。しかし、困難な時になると、コミュニケーションはより難しくなり、さらに悪いことに、多くの不確実性が伴うと、「我々はこれから何をするのか」を伝えることは本当に難しくなります。

加えて、これから何をするのか分からないという状況下においても、リーダーは自信に満ちた声で従業員と一緒に直面する状況を解決していくことを表現できなければなりません。少なくともデルタ航空での私の立場からは、これを実践するのが大規模なディスラプションを切り抜ける鍵となりました。

意思決定は学習できるスキル。迅速に決断し、軌道修正を恐れないことが大切

―ディスラプションの時代には、物事に動じないCEOが勝つように思えることがあります。あなたはCEO就任の前にCFOを務めていました。CFOの役割に付随するストレスや緊張が、CEOとして課題に対処し、より広範な問題を理解する準備になった側面はあるのでしょうか。

エド・バスティアン氏:
良いポイントだと思います。CFOとして学ぶ多くの特性や方法論は、CEOやより広い意味でのビジネス・リーダーの将来に長期的に影響を与えるでしょう。

私がCFOであった2005年、デルタ航空は破産申請と法廷リストラを余儀なくされました。9.11の余波で、アメリカの多くの航空会社が同じような状況でした。私はCFOの業務だけでなく、リストラの指揮もとらなければなりませんでした。しかし、この経験はビジネスを広く、深く理解することに非常に役に立ちました。

意思決定の鍵となるのは分析スキルです。優れたCFOは非常に優れた意思決定を行います。しかし、だからといって、CFOが必ずしも優れた直感や勘を持っているとは限りません。それらは重要ですが、決断することから学ぶことができます。

私のキャリアに役立った経験のひとつは、デルタ航空に入社する前、ペプシコでグローバルなスナック事業「フリトレー(FritoLay)」のCFOを務めた経験です。ペプシコで働いた理由のひとつは、意思決定能力を磨くためでした。意思決定は学習できるスキルで、生まれつきのものではありません。私たちは皆、必ずしも優れた意思決定者として生まれてくるわけではありません。

決断を下す際に学ぶことのひとつは、情報を集め、素早く行動することです。じっくりと腰を据えて決断することはしてはいけません。その時その時で決断を下し、軌道修正することを恐れないことが大事です。そうすれば、時間が経つにつれて打率が上がっていくものです。

というのも、十分に素早く決断すれば、多くの場合は小さな決断で済むことが多いです。また、決断をしないこと自体、それもまた決断していることを意味します。

だから、意思決定能力の面でチームの質と育成により集中し続ければ、彼らが自信を持って決断し、物事がうまくいったときも、うまくいかなかったときも、自信を持って軌道修正し、より良く意思決定できるように学び続けます。これは、私たちのビジネスのあらゆる面で助けになると思います。

意思決定に関してもう一つ加えるとすると、パンデミックの環境下で学んだ「謙虚さ」です。謙虚であるために学び続けこと、傷つくことを厭わないこと、そして危機やディスラプションがビジネスに影響を及ぼしているときにそれをさらけ出すこと。

あなたのチームは、すべてに対して答えを持っているリーダーよりも、誠実で、弱く、人間味と謙虚さを持ち、学び続けているリーダーを支えたいと思うものです。アメリカや世界の優れたCEOは、業務遂行スキルだけでなく、行動特性も変化し始めていると思います。

The content of this article is intended to provide a general guide to the subject matter. Specialist advice should be sought about your specific circumstances.