1 はじめに

 EU理事会は、2024年1月26日、強制労働によって生産された製品(以下「強制労働製品」という。)のEU市場での流通等を禁止する規則に関する立場を採択し、理事会議長国にEU議会との交渉権限を付与した(以下「本採択」という)。

 本採択は、遠隔販売(distance sales)を通じて提供される製品を含める形で、強制労働の禁止にかかる規制範囲を明確化するとともに、強制労働に関する単一のポータルを設置し、強制労働についての調査および証明に関する欧州委員会の役割を強化する内容となっている [1]

 以下では、本採択が行われた経緯、本採択の内容および今後の見通しについて概観する。

2 本採択の経緯

 近時、EUでは、サプライチェーンにおける強制労働などの人権侵害の根絶に向けた動きが活発化している。

 すなわち、欧州委員会は、2021年7月には、強制労働に関与するリスクに対処するためのデューディリジェンスに関するガイダンス [2]を、2022年2月には、一定以上の規模の企業に対して、人権を含めた持続可能性に関するデューディリジェンスの実施を義務付ける指令案 [3]をそれぞれ発表した。

 かかる中、米国で2022年6月21日に、新疆ウイグル自治区で製造等された製品を全て強制労働によって製造等された製品とみなし、米国内への輸入を原則禁止する内容のウイグル強制労働防止法(UFLPA)が施行された直後、EU議会は強制労働製品がEU市場内で流通することを禁止する措置を発表した。その後、欧州委員会は、2022年9月15日、強制労働製品のEU域内での流通を禁止する規則案(以下「本規則案」という。)を発表した [4]

 本規則案は、強制労働製品をEU市場に流通させること、またEUから域外に輸出することを禁止することを目的としており、EU市場に製品を流通させ、またはEU域外に輸出する、中小企業を含むあらゆる事業者が規制対象となっている。また、禁止対象製品は、採掘、収穫、生産、製造などサプライチェーンのいずれかの段階において、部分的にあるいは全面的に強制労働が用いられた製品とされている。このように、本規則案は、あらゆる規模の企業を一律に対象とし、強制労働により生産された原材料が一部でも使用された製品のEU市場での流通・域外への輸出を全面的に禁止する包括的な内容となっていた。

 本規則案では、強制労働製品の輸出入の禁止にかかる調査は、①予備調査(4条)、②正式調査(5条)、および③当局による決定(6条)の3つのステップを経る形で進められるとされている。なお、本規則案では全般的にリスクベースアプローチが採用されている。

 本規則案の発表を受けて、EU理事会およびEU議会は、本規則案に関する審議を開始し、EU議会は2023年11月8日にその立場を採択していたところ、今般、EU理事会が上記のとおりその立場を採択するに至った。

To view the full article, click here.

The content of this article is intended to provide a general guide to the subject matter. Specialist advice should be sought about your specific circumstances.