翻訳:志澤政彦(Masahiko Shizawa)

原文: https://blogs.duanemorris.com/vietnam/2018/05/15/are-green-bonds-the-answer-to-vietnams-infrastructure-dilemma/

ベトナムを含む東南アジア諸国では、急成長とともに安定した資金源の確保が困難になってきた。

このことは、インフラ事業において顕著である。アジア開発銀行(ADB)の報告書によると、経済成長に伴い、2030年までにこの地域では2.8兆米ドルに相当する道路、橋梁、鉄道が必要になるとされている。

不安定さを増す政治情勢に直面している東南アジア諸国は、この先数年のインフラ開発の資金調達の選択肢としてより安全なものに目を向けている。「一帯一路」政策の下ですでに1兆米ドルものプロジェクトを支援してきた中国への過剰依存は、国内的解決策を経済が志向するにつれ、その規模が縮小されていくものであろう。従前に表明した境界線を踏み越えようとする中国の計画への恐怖は、資金の不正流用及び失敗したプロジェクトという具体的教訓と相まって、この地域周辺の国々に「一帯一路」の活用の再考を迫ってきた。

南シナ海の領域問題をめぐる政治的緊張及び増加傾向にある国際的な保護主義を前に、ベトナムのような国々は将来的な資金調達を自前で行う途を探る方向でいる。この地域全般で国家予算への負担は増加傾向にあり、この先数年で強く求められる成長のため投下すべき他の資金元を探そうとしている。一つの提案は、「グリーンボンド」の発行促進である。

「グリーンボンド」について知らなければならないこと

グリーンボンドは債券の一つであるが、発行者によって調達された資金は「グリーン」なプロジェクト、つまり、環境に配慮し、気候への懸念を考慮に入れたものに割り当てられる。グリーンボンドの発行が特に利益になるセクターは、再生可能エネルギー、インフラ、および建設業界である。

道路、橋梁、トンネル、そして鉄道の建設には、地域的及び全国的な気候に多大な負担をかけてしまう。そのため、環境フットプリントの低減を志向するプロジェクトの優先度は最も高い。

環境に配慮したプロジェクトに資金調達を集中させることに加えて、グリーンボンドは発行者の持続可能な開発への取り組みの深さを強調する意義もある。さらに、発行者はグリーン・ベンチャーにのみ投資をする特定のグループのグローバル投資家にアクセスできるようになる。国外のプレーヤーによるグリーンな投資への注目が高まっている中、資本調達のコスト削減にも貢献しうる。

ベトナムにとって意味するものとは

ドイツの開発機構であるGIZによれば、現在の炭素依存的成長からより持続可能な道筋へと移行し、その約束草案(Intended Nationally Determined Contribution、INC)に向けた行動をとるため、ベトナムは2020年までにおよそ307億米ドルを必要としている。

グリーンな成長のための資金のうち30%程度は国家予算、すなわち中央と各省の予算及び政府開発援助、からの拠出が見込まれているが、残りは民間セクターから供給されることとなるとみられる。

ベトナム政府が2011年から2020年の期間について承認したベトナム・グリーン成長戦略(Vietnam Green Growth Strategy, VGGS)の下では、資本市場がその目標達成のカギとなるだろう。グリーンボンドが死活的な役割を果たすのは、まさにこの点においてである。グリーンなプロジェクトや事業体のため特別に資金調達を行い、グリーンな商品のデリバティブの流通の素地を作り、さらに民間セクターの投資を持続可能な開発のため活用することになる。

国外からの関心としては、ベトナムのグリーンボンドの発行により、持続可能な開発、再生可能エネルギー、そして環境に配慮した成長を志向している国際投資家の誘致が期待されている。世界中の投資家が、気候変動の課題やエネルギーの移行につき、前にも増して注視している。環境問題を考慮に入れた投資ツール、特に開発途上国におけるものについて要求する投資家は、増加の一途を辿っている。

この地域で、ベトナムが持続可能な資金調達の見通しを見据えている唯一の国というわけではない。アセアン・グリーンボンド基準(ASEAN Green Bonds Standards、AGBS)が2017年11月に開発・実行され、アセアンでのグリーンボンドの発行に共通の基準が制定された。マレーシア、シンガポール、インドネシアの会社は、すでにアセアン・グリーンボンドと称された債券を発行している。

これらのグリーンボンドの発行によって調達された資金は、再生可能エネルギー、廃棄物処理、グリーンな建築物やインフラといった、持続可能性の要件を満たしたプロジェクトに配分され、さらに統合、連帯、アセアン全体の成長といった共通の目標に貢献するものである。何よりも、地域のリーダーたちは将来世代の犠牲のもとに成長は成り立たないことに気づいてきている。AGBSのような新たな取り組みが、環境に配慮した投資への資源の分配を促進するだろう。

成長不全を来しているグリーンな成長

2020年までに達成されるべき指標の一つは、グリーンボンド市場を、現在およそ90兆米ドルのグローバル債券市場の少なくとも1%にまで拡大することである。これを現実のものとするため、ソブリン債発行者は断固たる決断をする必要がある。

流動性の欠如、債券の構造の限定的な多様性、及び確実に収益の見込めるプロジェクトの定期的で大きな流れの不在といったものが、未だにアジアの現地通貨によるグリーンボンド市場の特徴である。

加えて、社会的責任を果たそうとしている投資家からの恒常的な要求はまだ限定的であり、この市場の成長の可能性を阻んでいる。

そうはいっても、ソブリン債発行者が環境を整備し、強力な枠組みが適用される限り、現地通貨でのグリーンボンド市場の成長の見込みは大きい。制約となりうるのは、確実に収益の見込めるグリーンな投資の数と大きさであろう。

もしベトナムが「グリーンボンド」の動きを十全に活用しようとするなら、上述したような方法での資金の注入が解決策を示してくれるだろう。それは、インフラ事業における資金調達の穴を埋め、より速い拡張に向けた基礎を固め、そして、これまで長い間痛めつけてきた環境には休息をもたらすものであるはずだ。

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