今月は、労働基準法上の労働時間の規制が及ばない管理監督者への該当性について解説します。

現行法において、賃金請求権の消滅時効期間は2年間とされていますが、令和2年4月1日に施行される改正民法に合わせて、賃金請求権の消滅時効を当分の間3年間とするが、将来的には5年間に延長する旨の労働基準法改正が予定されています(令和2年1月10日開催の労働政策審議会労働条件分科会において公表された「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」参照)。今後、賃金請求権の消滅時効が延長されることに伴い、労働者による残業代請求が増加することが想定されます。

この点、労働基準法上の管理監督者に残業代を支払う必要はないとされていますが、裁判例では管理監督者該当性が厳格に判断されているところ、裁判例の基準に照らすと管理監督者性が認められないケースも多く見受けられます。そこで、今回の解説では、改めて裁判例における管理監督者性の判断基準を説明するとともに、近時の裁判例をご紹介します。

弊所では、管理監督者該当性についての調査等、様々なご相談を受けておりますので、ご不明な点等ございましたら、ご遠慮なくご連絡下さい。

1.管理監督者該当性が認められるための各要件

労働基準法上、「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」といいます。)については、労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されないとされています(労基法41条2号)。

使用者にとっては、労働時間の規制を受けず、また、残業代を支払わずに働かせることができる都合がよい制度のように思われますが、行政解釈上も裁判例上も、管理監督者制度の適用は、極めて限定された範囲でしか認められていません。

すなわち、行政通達及び裁判例において、管理監督者性が認められるには、次の3つの要件(いずれも満たす必要があります。)が必要とされています。

①職務内容、責任と権限の要件

②勤務態様の要件

③賃金等の待遇の要件

以下、各要件について解説します。

(1) ①職務内容、責任と権限の要件について

管理監督者について、労働時間の規制の適用除外とされた趣旨は、管理監督者が、事業主に代わって労務管理を行う地位にあり(管理者)、労働者の労働時間を決定し、労働時間に従った労働者の作業を監督する者(監督者)であるため、自らの労働時間は自らの裁量で律することができ、かつ管理監督者の地位に応じた高い待遇を受けるので、労働時間の規制による保護を要しないとされたことにあります。

したがって、管理監督者は、その職務内容、責任と権限について、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあること」が必要とされます。

この点、裁判例が述べる、職務内容、責任と権限の要件についての文言は様々であり、統一したものはありません。

職務内容、責任と権限の要件については、日本マクドナルド事件以降、企業全体への運営の関与を要するとする裁判例が見られました。これについては、企業においては各管理職に管理権限が分配されているのであるから、それぞれの管理職が自らの担当分野について経営者に代わって管理をしていれば、職務内容、責任と権限の要件を認めるべきであると批判され、最近では「職務の内容が,少なくともある部門の統括的なものであって,部下に対する労務管理上の決定等について一定の裁量権を有していること」(技術翻訳事件、東京地判平23.5.17等)といったように、要件が緩和または明確化されているとも言われています。しかし、最近でもマクドナルド事件と同様の文言を用いて、経営への関与について厳格な判断をしている裁判例は散見され(大阪地判平29.1.20、津地判平29.1.30、大阪地判平29.9.8等)、必ずしも要件が緩和または明確化されたとはいえないとも思われます。

実務上は、まず、管理監督者とされている者が、部下に対する労務管理において重要な権限(採否への重要な関与、人事考課等)を有していること確認する必要があります。

そのうえで、裁判例では、労務管理以外の経営への関与も求めているものがあることを踏まえて、経営に関する重要な会議への出席や一定額の経費支出権限等、経営に関与していると認められる事情の有無を確認しておくのがよいと考えます。

さらに、「経営者と一体的」と判断するために、従業員における管理監督者の割合を検討している裁判例も認められるため、明確な根拠はありませんが、大規模な会社であれば従業員の上位10%程度、小規模な会社や支店であれば上位の数名を管理職としておけば、リスクを軽減できるものと考えます。

(2) ②勤務態様の要件について

勤務態様の要件については、文言の細かな違いはありますが、裁判例や行政通達によって大きな違いはありません。

【勤務態様の要件】

自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること

遅刻、早退について賃金を控除していない、業務時間途中で自分の判断で仕事以外のことを行っている等の事情がある場合に労働時間について裁量があると認められます。

出勤時刻や勤務時間が変則的であっても、それが一般労働者のシフトの穴埋めのためであるような場合は、労働時間について裁量があるとは認められません。

また、出勤時刻や勤務時間は自由とされていても、あまりに繁忙であり、実質的に自由とはいえない場合にも労働時間について裁量があるとは認められません。

裁判例によっては、労働時間についてタイムカードや自己申告により会社に報告していたり、会社から労働時間の調整について指示を受けていることをもって、労働時間について裁量がないとしているものもありますが、管理監督者であっても、使用者は、健康確保や深夜割増賃金の支払のために労働時間を管理把握する必要があるため、労働時間を報告し、調整を受けていたというだけでは、労働時間についての裁量を否定することにはならないと考えます。ただし、勤務日や出勤時刻の予定をあらかじめ報告するよう求める等、健康確保や深夜割増賃金の支払の必要を超えて労働時間の管理を行っている場合には、労働時間についての裁量が否定されることとなります。

(3) ③賃金等の待遇の要件について

賃金等の待遇の要件についても、裁判例や行政通達によって大きな違いはありません。

【賃金等の待遇の要件】

管理監督者としての地位や職責にふさわしい賃金上の処遇が与えられていること

裁判例では、管理監督者とされている者の給与額が、会社の中でどの程度の上位であるのか、また、管理監督者でない者と比較して高額な賃金となっているか、管理監督者でない者に対して時間外手当が支払われることにより管理監督者の賃金額より高額となることがないかといった事情が考慮されています。

そこで、実務上は、管理監督者でない者と管理監督者との間に、時間外手当の支給により逆転しないような大きな賃金差を設けることが必要となります。

(4) スタッフ管理職について

管理監督者は、「労務管理について経営者と一体的な立場にある者」を言うため、原則としては、労務管理をする部下のいるライン上の管理職を想定していると思われますが、行政通達は、ライン上に無い管理職であっても、ライン上の管理職と同様の処遇を受けている(同格以上に位置づけられている)者であって、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当するものは、管理監督者に当たるとしています。

スタッフ管理職と認められるための要件は、①ライン上の管理職(管理監督者)と同様の処遇を受けていること、②経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当していることであり、「労務管理について経営者と一体的な立場にある者」に比べると要件が緩和されているようにも思えますが、ライン上の管理監督者と同様の判断基準を用いて、管理監督者性を否定している裁判例があります(HSBCサービシーズ事件、東京地日案平23.12.27、労働判例1044.5、日産自動車(管理監督者性)事件、横浜地判平31.3.26、労働判例1208.46)。

スタッフ管理職に関する裁判例は、数が少なく、どのような要件で労基法41条2号の適用が認められるのか、まだ不明確な点もありますので、実務上は、スタッフ管理職を濫造することなく、ライン上の管理職との処遇の比較や業務内容等を慎重に行う必要があると考えます。

2.近時の裁判例

近時の裁判例にも、裁判所が管理監督者性の要件の定立及びあてはめについて極めて厳しい判断を行い、管理監督者性を否定しているものがありますのでご紹介します。

コナミスポーツクラブ事件(東京高判平30.11.22、労働判例1202.70)は、スポーツクラブの支店長職及びマネージャー職の管理監督者性が否定された事案です。裁判所は、①職務内容、責任と権限の要件について、経営者との実質的一体性が必要であり、その判断に際しては、損益管理、施設・設備管理、営業管理などの労務管理以外の事項に関する権限の広狭も踏まえて検討するとしたうえで、これらの事項に関して他部署や上長の承認が必要であるため、支店長の実質的な決定権が認められない等として、要件を満たさないと判断しました。また、②勤務態様の要件についても、タイムカードの打刻を求めていたことや年間及び各月の労働時間数が一定の範囲に収まるように勤務計画表を作成させていたことや、週報により勤務予定や勤務実績の報告が求められていたことなどを理由に、要件を満たさないと判断しました。さらに、③賃金等の待遇の要件についても、管理監督者に昇進したことによる増額分が時間外割増賃金相当分に満たないこと等を理由に要件を満たさないと判断しています。

前掲日産自動車(管理監督者性)事件は、大企業の課長職(マネージャー)の管理監督者性が否定された事案です。裁判所は、②勤務態様の要件については、遅刻早退により賃金が控除されたことがないことから自己の労働時間について裁量を有していたと認めることができるとし、また、③賃金等の待遇の要件については、年収が1234万3925円に達し、部下より244万0492円高かったことから管理監督者にふさわしい待遇と認められると判断しました。しかし、①職務内容、責任と権限の要件については、経営者との実質的一体性が必要であるが、当該課長職は経営会議には参加していたものの、その立場は補佐的なものであった等として、要件を満たさないと判断し、結果として、管理監督者性を否定しています。

                                   以上

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